活動内容5月総会時の卒業生による講演会得 手 勝 手

 

 

得 手 勝 手

東邦大学客員教授
 額 田   均

 

この度は、「糖尿病性末梢神経障害」、「虚血・再灌流傷害と末梢神経」などの話題と思いましたが、先生方の日々の診療にどれ程お役に立てるかははなはだ疑問で、それならば卒業後母校にご無沙汰した私がどこで何をしていたのか皆様にご報告するのが私の務めと思い、本日は東邦大学を卒業後今日に至るまで、特に研究面での流れを主にご報告し、最後に糖尿病性末梢神経障害について若干触れたいと思います。

北里大学病院での卒後研修  昭和47年(1972年)3月に東邦大学を卒業時、創立2年目の北里大学病院内科レジデントに応募。採用された内科レジデント6人には、同級の上嶋十郎、今年度の日本内科学会会頭小林祥泰などがいた。最初の2年間は内科全領域のローテーションで、3年目からは神経内科所属となり、神経病理、神経放射線、脳外科をローテートし、5年間のレジデント研修を終了。その後、古和助教授(当時)の下で末梢神経疾患についての研究を始めた。

ニュージーランド(NZ)への留学  北里大学6年目に卒後研修も一段落、神経学会専門医(第2回)となり、ラグビー王国NZのいくつかの病院へ手紙を送った。その返事が最初に来たのがオタゴ大学のPollock教授。夏休み面接に行き、神経内科よりラグビーの件を強調し合格。  昭和53年(1978年)8月29日にNZ上陸。英語の壁もラグビーでは問題とならないが臨床ではそうもいかず、1年目は臨床は見習い程度で主に寒冷による末梢神経障害の研究。2年目から外来も加わり病歴は苦労するものの、神経内科現症は世界共通で問題なく、これは日本での研修が世界でもトップクラスのお陰。ただし、NZはやはり英国方式で、回診ではまず病歴だけで30分以上の討論があり、その後現症に移るので、病歴の聞き漏らしや聞き間違いに苦労。

メイヨークリニック  NZも3年目になり、Pollock教授から末梢神経の分野では御三家の一人米国Mayo ClinicのDyck教授への留学を薦められ、昭和56年(1981年)12月末にロチェスターへ。NZでの寒冷性末梢神経障害の発症に虚血の関与が示唆されたが、末梢神経はその支配血管の豊富さと省エネ組織のため中枢神経に比し虚血に対して強いのが特徴とされ、当時はまだ虚血性末梢神経障害のモデルがなかった。Mayoではこのモデル作成を目標とし、最終的に直径15μmのmicrosphereを用いてラットに虚血性末梢神経障害を惹起し急性虚血による病理像を確立。この時、やはりMayoで豪州からの留学生が糖尿病ラットの末梢神経に虚血の存在を見つけた。この二つの結果から、昭和61年(1986年)にはヒトの糖尿病性末梢神経障害での虚血の関与が明らかとなった。

糖尿病性末梢神経と虚血  糖尿病性末梢神経と虚血の関係については、電気生理学的に糖尿病性末梢神経は正常な末梢神経に比し虚血に対して抵抗性が増すことが明らかにされていた。しかし、昭和59年(1984年)7月にオタゴ大学内科に戻り、糖尿病性末梢神経と虚血の関係を病理学的に検討すると、まったく正反対の現象がみられた。すなわち、糖尿病性末梢神経は急性虚血に対し形態学的に脆弱性を示した(1986年)。この結果は当初いろいろと議論を生んだが、1992年に他の方法により再現に成功し、またカナダの学者が1996年に同様の結果を確認した。その後、再灌流傷害については糖尿病性末梢神経は形態学的のみならず電気生理学的にも脆弱性を認めることが明らかとなった。

日本での研究  平成16年(2004年)から(財)額田医学生物学研究所での研究も開始。平成20年(2008年)に日本学術振興会からの科研費を受領し、現在は高血圧・大血管障害と糖尿病性末梢神経障害、虚血性末梢神経障害の遺伝子療法などについて、オタゴ大学、弘前大学第一病理、青森県立中央病院神経内科、防衛医大整形外科、名古屋大学内分泌代謝内科、愛知学院大内科などと共同研究中である。

糖尿病性末梢神経障害について  糖尿病性末梢神経障害については、多発性神経障害と単性神経障害に大別されるが、多発性が圧倒的に多い。糖尿病性多発性神経障害は糖尿病三大合併症(他に網膜症と腎症)といわれる細小血管障害のなかで、最も発症頻度が高く、最も早期から発症する。厳格な血糖コントロール維持により、発症・進行が抑制される。診断ではその存在だけでなく、病期・重症度の判断がより重要で、このどちらも外来でのアキレス腱反射と振動覚検査だけで可能である。シビレなどの陽性感覚障害が出現するのは、病状がかなり進行してからであり、この時期には既に神経線維の脱落が明らかになっている。四肢の感覚・運動障害のみならず、自律神経障害を伴う全身性疾患であり、無痛性心筋梗塞は突然死に関与する。発症機序には、高血糖による代謝障害(ポリオール代謝亢進など)、酸化ストレス、神経虚血など多因子が関与し、病期により各因子の関与の度合が異なる。

 

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