活動内容5月総会時の卒業生による講演会咽喉頭異常感症の診断と治療

 

 

咽喉頭異常感症の診断と治療

東邦大学医学部耳鼻咽喉科学第二講座教授 大 越 俊 夫

 

I、はじめに
咽喉頭異常感症とは「患者が咽喉に異常感を訴えるが通常の耳鼻咽喉科的視診によっては訴えに見合うような器質的病変を局所に認めないもの」と定義されている。
異常感とは患者の咽喉頭におけるさまざまな不定愁訴である。現代社会ではストレスの増加が多く、ストレスにより引き起こされる自律神経異常が咽喉頭部の異常感を引き起こすともいわれている。耳鼻咽喉科領域の心身症の代表疾患として取り上げられている。
咽喉頭異常感患者の頻度は1985年では約3・5%であったが1998年では6・5%であり増加傾向にある。男女比は4:6で女性に多い。本疾患の患者は医師の説明に納得せずドクターショッピングをする傾向がある。
II、原因
咽喉頭異常感を引き起こす原因は多岐にわたっているが局所的、全身的、精神的原因の3つに分けられる。
局所的原因が最も多く半数以上を占める。急性上気道炎後や慢性咽喉頭炎、副鼻腔炎による後鼻漏など局所炎症によるものが多い。また鼻アレルギーや喉頭アレルギーなどの気道過敏症、甲状腺疾患なども含まれる。咽喉頭部の悪性腫瘍が咽喉頭異常感を訴え受診することも多く悪性腫瘍を決して見落としてはならない。
全身的原因としては鉄欠乏性貧血が女性に多くみられる。
咽喉頭異常感患者には程度の差こそあれ、心因の関与することが多いと思われる。癌に対する不安が多い。また精神病も含まれており専門家の診察を要する場合もある。
III、検査と診断
診断のための検査は種々の検査が組み合わされて行われる。咽喉頭異常感の原因が多岐であるので、検査法も種々であるが心身両面からのアプローチが必要である。問診は大切である。異常感の訴え方は「つかえ感」「違和感」「なんとなく変」などさまざまである。咽喉頭異常感出現のきっかけや、異常感を感じる部位や食事への影響など、また咳嗽や痰などの随伴症状が診断に大きく役立つ。診察ではファイバースコープを使った局所の丹念な観察が第一であろう。頸部超音波検査やCT、MRIの画像検査、血液検査による炎症やアレルギー、甲状腺機能検査も必要となる。
咽喉頭異常感に対する精神的アプローチの方法には多くの質問紙法心理テストが用いられているが、われわれはCMI健康調査表を用いている。咽喉頭異常感の診断は悪性腫瘍の除外から始まるが、原因が明確でないことも多い。
IV、治療
説明が最も大切であろう。患者は咽喉頭異常感なる病気の存在をしらないので「咽喉頭異常感は病気の一症状である」と知らせる。そして咽喉頭異常感をきたす数多くの病気があり、心の状態も関与していることを説明する。
咽喉頭異常感の原因と思われる疾患がいだされれば原疾患に対する治療を行なう。
A、症候性の場合(代表的治療を示す)
1、気道局所炎症
原因の約半数を占め慢性副鼻腔炎、慢性扁桃腺炎、慢性喉頭炎などで酵素剤、マクロライド系抗生剤投与を行なう。
2、気道アレルギーが疑われる場合には抗アレルギー剤、気管支拡張剤、ステロイドが有効である。
3、逆流性食道炎
胃酸分泌抑制剤投与
4、局所腫瘤
悪性が疑われる場合には病理検査を行う。良性と思われる場合は腫瘍と咽喉頭異常感の関係は明確にできないことも多く、手術前に十分なインフォームドコンセントを得る。
B、所見、検査結果に異常のない場合
患者は医師の「なんとも無い」という言葉に納得がいかない。医師は「診察・検査所見に異常はない」と言い、患者は「具合が悪いのに」と考える。前記したように咽喉頭異常感という病気の存在を知らせることが重要である。
咽喉頭異常感患者は程度の差こそあれ心因の関与していることも多くマイナートランキライザーが効果を示す。
V、治療のポイント
患者は咽喉頭異常感症という病気の存在を知らない。「気のせい」「神経質」という言葉は慎むべきであろう。悪性腫瘍も見落としてはならない。

 

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