活動内容5月総会時の卒業生による講演会最近の脳血管障害の治療動向

 

 

最近の脳血管障害の治療動向

東邦大学医学部脳神経外科第一講座
清 木 義 勝(昭和46年卒)

 

1、はじめに
最近では、脳卒中という言葉が脳血管障害の総称であることは世間一般に広く知られるようになった。しかし、これらの内容が具体的に脳血栓や脳塞栓、脳出血やくも膜下出血を意味することまでは一般に知られてはいない。
2001年の総務省統計局による年間の脳卒中発生患者数は134万人で、脳梗塞112万、脳出血17万、くも膜下出血5万となっている。また、それぞれの年間死亡者数は脳梗塞82164名、脳出血31122名、くも膜下出血14553名で、死因別では悪性新生物、心臓疾患に次いで第3位となっている。
これでも脳卒中による死亡者数は1965年から1970年の約18万人をピークに1990年までに13万人台へと減少した。この結果をもたらした一つの大きな要因に降圧剤の進歩があることは誰しも認めるところであろう。しかしながら、その後、更なる減少は今もって得られていない。この原因を脳卒中の死亡原因別に分析すると、この20数年間に認めた一過性の脳卒中死亡者数の減少が出血性疾患である高血圧性脳内出血の死亡者数の減少に起因するもので、脳梗塞やくも膜下出血による死亡者数はなんら変化していないことが判った。それでは、
2、脳梗塞やくも膜下出血は予防できるのか
この問いに対する私の答えはyesである。
昭和50年代にはいってから、脳神経外科手術患者の救命率が急速に上昇した背景には、昭和48年に日本の脳神経外科手術に導入された手術用顕微鏡によるところも大きいが、同時期に脳疾患の診断を目的に導入された新しい診断機器CT scanner(EMI−10)によるところも多大である。この診断機器の功績は、それまで見ることのできなかった頭蓋内病変を画像上で直視することを可能にし、その病変の部位、大きさ、性状を短時間で確認させ、早期に適切な治療を行えるようにさせたことである。その後、この機器には改良に改良が施され、現在のヘリカルCTや多列式CTへと発展した。一方、このCT scannerの進歩に呼応して、MRI・MRAの出現を生み、現在では、これらの診断機器のおかげで、全身臓器の三次元的画像ばかりか、全身血管の正確な三次元的画像を得ることが出来るようになった。これら診断機器の現時点での解像度については、おおむね直径2mm以上の病変であれば的確に捉えることが出来る。従って、今後、我々がこの機器を集団検診的に応用すれば、脳梗塞を起こす前に狭窄状態にある脳動脈を発見することが可能であり、また、未破裂状態の脳動脈瘤を発見することも可能と考えられる。また、この時点で最適な脳外科的治療をこの患者たちに施せば、必然的に脳梗塞やくも膜下出血による死亡者数は減少するものと思われる。
3、脳動脈狭窄、未破裂脳動脈瘤に対する治療法について
ほんの十年前まで、頸部内頸動脈狭窄に対しては、頸動脈内膜剥離術(CEA)が、頸動脈閉塞症に対しては、浅側頭動脈―中大脳動脈吻合術(STA-MCA bypass)が、また、未破裂脳動脈瘤に対しても破裂脳動脈瘤時と同様に開頭脳動脈瘤ネッククリッピング術が行われていた。いずれの手術も侵襲性の高い直達手術である。しかし、一般外科領域で低侵襲性手術(minor invasive operation)が推奨され始めてから、脳外科領域においても出来る限りの低侵襲性手術が求められるようになった。ここ5〜6年前から、脳血管疾患に対して広く行われるようになった血管内外科手術はその冴えたるものである。ここでは、その血管内外科手術の代表的な二つの手術である脳動脈瘤コイル塞栓術と内頸動脈ステント術について述べることとする。
1)血管内外科治療法の実際
この血管内手術法の始まりは1960年代に頸動脈海綿静脈洞瘻や脳動静脈奇形の塞栓術からはじまったといってよい。その後、Servinenkoが1974年以降におこなったバルーンカテーテル法による塞栓術によって大きくステップし、1990年代になって、現在行われている手術法に進化してきた。この手術法の代表的な手術である脳動脈瘤コイル塞栓術と内頸動脈ステント術のtechnical approachは基本的には同じで、いずれも大腿動脈に挿入されたsheath introducerからguiding catheter(親カテーテル)が内頸動脈まで挿入され、さらに、この親カテーテルを通して、それぞれの目的にかなった特殊なマイクロカテーテルを挿入して手術が行われる。
脳動脈瘤コイル塞栓術の場合は特殊なマイクロカテーテルが動脈瘤内に挿入され、このカテーテルを通して、塞栓用のマイクロコイルが瘤内に連続的に密に挿入され、最終的には瘤内がパックキングされて、動脈瘤の塞栓が完了する。
他方、内頸動脈ステント術の場合は、最初に親カテーテルを通して動脈狭窄部の遠位部までguiding wireが通され、これをもとにバルーンカテーテルが挿入され、狭窄部が拡張される。この後、拡張部に特殊な自動拡張型ステントが挿入され、動脈の狭窄部が拡張されて、正常の血流が得られることとなる。
いずれの手術も非常に低侵襲性手術で入院期間も数日である。
4、おわりに
最近では一般外科、脳神経外科を問わず、less invasive surgeryは当たり前で、外科医にとっては失敗の許されない過酷な時代となってきた。これを反映してか、最近の研修医やレジデントたちは、リスキーな外科医を敬遠する傾向にあり、大変嘆かわしいことである。しかしながら、大学病院である以上、これら最先端の医療機器を使った最新の手術を行わないで、避けて通ることは出来ません。
今後の更なる大学の発展のため、この機会を借りて、同窓生の諸先生方に精神的、経済的バックアップを切にお願いしたい。


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