活動内容5月総会時の卒業生による講演会総合診療・急病センター開設からの経過と今後の展望

 

 

総合診療・急病センター開設からの経過と今後の展望

総合診療・救急医学講座
杉 本 元 信(昭和47年卒)

 

1、開設からの経過
平成14年5月医学部教授会において総合診療・急病科学講座の設立が決定され、大森病院に総合診療科外来が新設された。同年11月杉本が教授に就任、翌15年4月診療科再編成に伴い総合診療・急病センターが誕生した。当センター開設の目的は総合診療科と救急外来を統合し、24時間365日いつでもどんな疾患にも対応できる初期診療を担う、臓器別ではない診療部門を構築することであった。16年6月新3号館が完成し、その1階部分で内科・外科・感染症科・救命救急センターが協力し、他に類をみないユニークな診療態勢が始まった。当初はスタッフを内科学講座や外科学講座などからの出向に依存していたが、次第に救命救急センターのスタッフはじめ本講座に移籍する医師や新規加入の医師に恵まれ、今日に至っている。なお、本講座には17年度から東洋医学科が加わった。また、21年度から総合診療・救急医学講座に改称された。

2、医局構成員(21年5月現在)
総合診療・急病センターの医局員は教授1(杉本)、准教授1(中西)、准教授(病院)4(吉原、島田、瓜田、本多)、講師1(佐仲)、講師(病院)1(中嶋)、助教5(加藤、原、本田、片桐、宮崎)、シニアレジデント2(渡邉、松田)、レジデント7(石井、一林、中山、名波、高地、関根、新井)、大学院生3(前田、佐々木、岩佐)である。東洋医学科の医局員は教授(病院)1(三浦)、シニアレジデント2(板倉、河野)、レジデント1(奈良)、専攻生1(植松)、大学院生2(田中、水野)である。

3、診療内容
日常診療では内科・外科とも多くの新患患者の初期診療にあたっており、種々の疾患を経験することができる。これまでの統計では、内科入院患者で多い疾患(症状)は、急性胃腸炎・腸炎、発熱・不明熱、意識障害・失神、急性薬物中毒、急性腹症、肺炎、めまい、脱水症、脳梗塞、尿路感染症の順であった。外科手術症例の内訳は、鼠径ヘルニア、急性虫垂炎、消化管穿孔、腫瘤切除、イレウスの順であった。当直帯は内科・外科とも専門内科・外科との協力体制をとっている。救命救急センターは1階と2階に分かれているが、両方で受け入れる患者の内訳は、心肺停止、急性心筋梗塞・心不全、重症呼吸不全、重症脳血管疾患、急性中毒の順であった。当センターの特色は内科と外科の垣根が無いこと、一般外来と救命救急センターが近い導線で結ばれていることで、これは患者にとって大きなメリットである。東洋医学の知識を身につけることができることも本講座の特色の一つである。

4、教育
平成16年度に新臨床研修制度が導入され、当センターは内科・外科・救急の初期研修の受け皿となり、各部門が年間を通じ常時3〜5名の研修医を預かっている。また、卒前医学教育においても通年M5の臨床実習生を指導しており、4〜5月はM6選択制臨床実習生を受け入れている。海外からの実習希望者もあり、これまでイギリス、ドイツ、スウェーデン、シンガポール、タイなどから実習生を受け入れた。症例検討会は週2回(月・金)で、月曜日はスタッフが持ち回りでショートレクチャーを行っている。また、徳田非常勤講師(筑波大学大学院臨床医学系教授、4月に聖路加国際病院から移籍)には定期的に研修医と学生の指導をお願いし、林客員教授(九州大学総合診療科教授、本学昭和50年卒)にも不定期に学生対象の特別講義をお願いしている。

5、研究
主なものとして急性腹症の診断と治療に関する研究、非アルコール性脂肪性肝炎に関する研究、高血圧の病態に関する研究、GERDに関する研究、呼気試験を用いた各種疾患の病態解明に関する研究、common diseaseの臨床疫学的研究、救急医学に関する研究、東洋医学に関する研究がある。

6、学会活動
開設2年目以降、症例報告中心に学会発表ができるようになり、次第に臨床研究の指導体制も次第に整い、学会発表の機会が増えている。主な学会は日本内科学会(地方会を含む)など内科関連学会、日本臨床外科学会など外科関連学会、日本感染症学会、日本救急医学会・日本集中治療医学会・日本腹部救急医学会などの救急関連学会、日本総合診療医学会、日本東洋医学会、ヘルニア研究会などである。また、国際学会にも積極的に多数の演題が発表されている。

7、展望
総合診療の概念は新しいようであるが、臓器別に偏らずに患者の全体を診ようとする、本来の医療のあるべき姿を実践する概念である。当センターは第一線で通用するgeneral specialistを輩出するだけでなく、将来の総合診療科を背負って立つ人材を育成する使命を帯びている。当センターの目標は、さらに認知度を高め、人材を集め、独自に当直体制を組むことができるような診療科に成長することである。