活動内容5月総会時の卒業生による講演会お産は命がけ!(激変した周産期医療)

 

 

お産は命がけ!(激変した周産期医療)

東邦大学医療センター大森病院産婦人科
田中 政信(昭和49年卒)

 本邦は、産婦人科医師等の努力により世界一安全な周産期医療を提供できるようになった。このことで「お産の安全神話」が社会へ浸透し、多くの国民が「お産」は安全であると誤解し、分娩時に不具合が生じた場合は全て”医師のせい”と考える風潮になった。近年、分娩に関係した医療訴訟が増加し、周産期関係の医師や分娩取扱医療機関の減少に伴い、いわゆる「お産難民」が社会問題となり、「お産の安全神話」が崩壊し、周産期医療は激変した。

 本邦の周産期医療水準は世界最高を維持している。しかし、妊産婦死亡は2010年度では45名であり「0」ではない。死亡の主たる原因は羊水塞栓と出血である。現代医学においても出血原因の究明は不詳の場合がある。分娩時に通常量の出血量であれば問題ないが、異常の場合は母児ともに生命の危険に曝され、時には死亡という最悪の事態を起こしかねない。データ的には約250人に1人の妊婦が大量出血等により生命の危険に曝されている。出血は母体側の問題であるが、一方で、分娩にはもう一つ「児」という大切な命がある。

 妊産婦の出血原因は、妊娠という特殊な血液成分等の変化も関与する。また、妊産婦の高年化も影響を与えている。分娩年齢のピークが30〜34歳に推移した。このことは子宮や卵巣の腫瘍合併妊娠、切迫早産等により安静入院が長く、下肢静脈瘤、血栓症の発症等の合併が増加した。その上、帝王切開分娩の増加による出血量の増量、DICや肺塞栓症の発症等が増えた。最近では産科危機的出血に対する対応法も、自己血貯血を事前に行うことや動脈塞栓術等を施行するなどの工夫・変化がみられる。

 妊産婦・周産期死亡がともに「0」になるよう、医療従事者の弛みない努力は当然のこと、妊婦自身の自覚と家族等の協力の上に「安全な分娩」は成り立つことを強調したい。  

 大田区や大森病院産婦人科の現状にも触れ、同窓の方々にご理解やご協力をお願いしたい。

 

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